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松濤美術館ニューズレター <らせん階段> 第3号! 2014年秋号 no.3

過去のニューズレター | 2016.03.01

第3号

館長室の窓から <3>

渋谷区立松濤美術館長 西岡康宏

暑い、そして長かった夏もようやく過ぎた矢先、今度は台風の襲来、さらには御嶽山の噴火と日本列島は自然災害に悩まされ続けています。こうした現象は、どうやら世界的でいたる国々で気候異常の現象が発生しており、将来に不安をいだかせています。
ところで、当館では春の「ねこ・猫・ネコ」展、次の「藤井達吉の全貌」展のあと、8月9日から「いま、台湾」展を開催し、無事に9月21日に終了しました。酷暑にもかかわらず、たくさんの方々が台湾の現代美術の作品を熱心に見て下さいました。どうやら今年は、ちょっとした台湾の年のようで、東京国立博物館、そして九州国立博物館において、台湾の国立故宮博物院展、東京藝術大学の「台湾の近代美術」展、また、府中市美術館の「それぞれの近代美術」展といった具合に、台湾関係の美術展が軒並みに開催されています。当館の「いま、台湾」展は、偶然にもそれらの一環として位置づけられたものであったと思っています。
10月7日からは「御法に守られし 醍醐寺」展を11月24日まで開いているところです。この展覧会の見どころは、何といっても世界最古の長さ15メートル36センチの絵巻「過去現在絵因果経」の全場面が期間限定ではありますが、いっきに公開されることです。
こうした試みは、これまで実施されたことはなく初めてのことですので、ご覧になることをおすすめいたします。8世紀に制作された国宝中の国宝に位置づけられているもので、絵画と書が同時に鑑賞できる貴重な作品です。この展覧では、他に弘法大師の国宝「大日経開題」や、同じく国宝の「閻魔天像」「訶梨帝母像」、重要文化財の「不動明王像」、俵屋宗達筆の重要文化財「舞楽図屏風」など、国宝・重要文化財21件を含む44件で、醍醐寺の仏教と文芸を紹介しています。
今回の展覧会の特徴は、仏教寺院のいわばすべてを網羅した一般的な展覧会とは異なり、文芸的側面を重視した内容となっています。作品数は決して多くはありませんが、醍醐寺の文化活動の一端を垣間見ることができるのではないかと思っています。
当館は創立以来、すでに32年を経過し、数にして160回以上の展覧会を催していますが、いままでに企画したことのない類いの展覧会を、これからも積極的に行っていきたいと思っております。

国宝「過去現在絵因果経」15m36㎝を一挙大公開!!
これからの全場面展示期間→11月18日~24日

展覧会ここだけの話 <3>

「展覧会ここだけの話」
企画展担当学芸員より

ただ今、開催中の「御法に守られし 醍醐寺」展は、「第1章 み仏のおしえ ~国宝「過去現在絵因果経」と経典類~」「第2章 み仏のすがた ~密教の彫刻と絵画~」「第3章 み仏とつながる ~密教法具類~」「第4章 醍醐にひらく文雅 ~桃山・江戸時代の絵画と工芸品~」の4章で構成されています。第1~3章は、醍醐寺の密教寺院としての姿を、第4章では、文化の後援者としての姿をそれぞれ展示を通じてご紹介することを目的としています。
地下1階展示室の第1章では、仏の教えを伝えるもっとも基本的なものとしての経典を展示しております。今回の展示の目玉ともいえる「国宝 過去現在絵因果経」(醍醐寺本)は、奈良時代8世紀に制作された絵入りの経巻で、日本最古の絵巻と言われています。醍醐寺本は、釈迦国の王子、悉達太子(釈尊)が出家し、苦行を経て、菩提樹の下で瞑想に入り悟りをひらき、その後、襲ってくる魔王の軍衆をその慈悲力で退けるといった一連の場面で構成されています。期間限定ではありますが、この醍醐寺本の全場面を一挙に公開するため、当館では16mの専用ケースをあらたに作りました。全場面を通覧すると、太子の姿が3様に描き分けられていることに気づきます。出家した太子の姿は、双髻を結った薄紅色の衣姿で描かれ、修行を経て悟りの一歩手前の段階に達すると菩薩の姿に変わります。そして、そのあと菩提樹の下に如来の姿で描かれることで、太子が悟りの域に達したことが分かります。この変化を確認しながら作品をご覧頂くと内容がよくわかります。
2階展示室の第4章の展示では一変して、金地屏風が壁面を埋め尽くす華やかな展示となっています。応仁の乱後、荒廃した醍醐寺の伽藍復興に甚大な後援をした豊臣秀吉は、醍醐の地に桜を移植し「醍醐の花見」を催しました。展示では、花見ではなく、「幔幕図屏風」(生駒等寿筆)や「楓図屏風」(山口雪渓筆)で、今の季節の紅葉狩りを演出していますが、秀吉は花見の後に、秋には醍醐の地での紅葉狩りを楽しみにしていたものの、その年の夏に没し実現しなかったという逸話が残っています。秀吉が望んでできなかった幻の「醍醐の紅葉狩り」を当館サロン展示室のソファーに座ってお楽しみ頂ければ幸いです。

イベント便り

こんなことも!あんなことも!やってます!
教育普及チームより

①特別展「御法に守られし 醍醐寺」関連

●10月1日
展示の舞台裏

醍醐寺からお借りした寺宝44件が当館に搬入され、1日から展示作業が始まりました。重要文化財「不動明王像(五大明王像の内)」を設置している方(写真右)は、国内での醍醐寺展の他、2008年に、ドイツ・ボン市で開催された醍醐寺展の折にも、本像とともに海を渡られるなど、醍醐寺蔵品の輸送・設営を数多く担当されてきました。醍醐寺の寺宝の扱いに精通され、私たちにとって大変心強い存在でした。

●10月6日
開会式・特別内覧会

前日、台風18号が日本に上陸し、内覧会の開催も危ぶまれましたが、昼には速度をあげて東京を通過し、15時の開会式の頃には台風一過の快晴となりました。西岡康宏当館館長、桑原敏武渋谷区長に続き、総本山醍醐寺座主・仲田順和氏にご挨拶を賜りました。「楓図屏風」「幔幕図屏風」に囲まれて行われた開会式は、幻におわった秀吉の「醍醐の紅葉狩」を想起させるほど華やかに、そして大盛況のうちに閉会しました。

●10月13日
記念講演会「醍醐寺のあゆみ」
(醍醐寺第103世座主・仲田順和氏)

台風18号襲来から1週間後の13日、再び日本列島に台風が上陸しましたが、速度の遅い19号が東京に接近したのは、講演会終了後でした。当日は天候不順のなか、会場の外での聴講をお願いするほど、多くのお客様にご来場いただきました。仲田座主のご講演は、貞観16年(874)の開創から今日にいたるまでの醍醐寺の歴史の他、醍醐寺の資料調査、データベース化など近年の文化財への取り組みにもおよびました。ワコール人間科学研究所において吉祥天立像(重要文化財)の調査した際には、「ボディーサイズ(法量)がお像に触れることなく細かく測定されたことで、スリーサイズが判明。しかもそれが同数、つまり寸胴であったことには、吉祥天も驚かれたことでしょう。」と当時のエピソードをご披露くださり、会場は笑いに包まれました。理源大師聖宝から続く醍醐寺歴代座主の祈りと実践、心から心への伝道の話で、講演会は締めくくられました。

●10月18日
記念講演会「密教美術の粋―醍醐寺の秘宝探訪―」
(京都国立博物館副館長・松本伸之氏)

7日に展覧会がオープンして3回目の講演会となったこの日も、70人近いお客様がご来場くださいました。7~8世紀ごろにインドで起こり、中国を経て日本に伝来し、空海や最澄によって国内に広まったという密教の歴史から、講演は始まりました。日本の密教美術、そして醍醐寺の密教美術へと焦点がしぼられ、醍醐寺所蔵の美術作品の全貌を解説くださいました。講演会終了後、聴講された方々が、展示中の「閻魔天像」(国宝)を熱心にご覧になっているのが印象的でした。

●10月25日
ギャラリートーク

1回目のギャラリートークの参加者は15名。担当学芸員の解説を聞きながら、皆でじっくり作品を鑑賞する形となりました。“15㎝という至近距離に作品がある”という当館の展示の特徴を最大限にいかして、照暈や截金など仏画の代表的な制作技法を間近でご覧いただきました。

●11月1日
記念講演会「醍醐寺の文化財」
(醍醐寺広報室長・長瀬福男氏)

4回目の講演会にも、80名を超えるお客様がお集まりくださいました。足利義満や豊臣秀臣が、醍醐寺を支えた人であることは知られていますが、後宇多天皇と憲淳僧正、仏師快慶と重源上人等、さらに時代を遡ってお話しくださいました。南都焼き討ちによって壊滅的な状況に陥った東大寺を復興させた重源は、醍醐寺で修学し、快慶と醍醐寺を結びつけた人物です。醍醐寺に伝来する文化財は、約7万5千点余。講演の最後に長瀬氏は、資料を守り後世に伝えていくために必要なものは、高性能な収蔵庫ばかりではなく、「醍醐寺のこのお堂が好き。」、「この仏像・仏画を見に醍醐寺へいきたい。」という一般の人々の想いであると語られました。座主はじめ醍醐寺の方々がその想いにこたえるべく、仏の心や文化財の伝承に、日々努められていることを改めて感じました。

②水彩画教室

毎年、定員を上回る応募をいただく水彩画教室が、10月中旬より開講しました。今年度の講師は、小沢優子先生(水曜日)と奈良峰博先生(金曜日)です。モチーフは、果物や野菜、花、風景写真など毎回異なります。2時間という短い時間だけに、受講生は集中して制作に取り組まれ、自宅で仕上げてきた作品を先生に見せ、講評を受けている方もいます。個別のアドバイスにより、回を重ねるたびに表現の幅を広げられている様子が見受けられ、受講生の皆様の最終回の作品を拝見することが今から楽しみです。

醍醐の名水

美術館スタッフより

醍醐寺の開創と醍醐水にまつわる説話が、「醍醐寺縁起」に伝えられています。

聖宝は、笠取の山頂に五色の雲がたなびいているのを見た。登ってみるとまる
で故郷に帰ったように気分になり、ここに精舎を建てようと思案した。すると谷
間に一人の翁が湧き出る水を口にして「醍醐味」なりと賞味している。「私は、
ここに精舎を建て仏法を広めたい」と云うと、翁は「ここは古くから諸仏諸菩薩
諸天善神の雲集の地であり、私はこの山の地主・横尾明神だが、この地をあ
なたに献じ、わたしは永く守護しよう」と…
(当館『醍醐寺展』図録より抄録 仲田順和「醍醐寺の歴史」)

「醍醐水」は、上醍醐の清瀧宮拝殿近くに位置します。醍醐寺は自然環境を守り、創建以来の湧水を絶やすことがないようにつとめてきました。現在、神聖な湧水を賞味したいという多くの声に応えて、取水量を調整しながら、限定販売されています。醍醐水は、pH値6.8/硬度14.9PPMの超軟水。飲料水としてだけではなく、お茶、コーヒー、粉ミルクなどにも適しているそうです。水炊きをつくる折に醍醐水を用いましたところ、鶏の甘みが引き出され、コクの深い濃厚なお出汁をとることができました。醍醐水は、醍醐寺境内の各売店、醍醐寺HPで購入できます。また、展覧会期間中、当館の売店でも販売しております。

超軟水…そのままでも、お料理にもおススメです。

醍醐水に関連した商品をひとつご紹介いたします。醍醐水を配合した化粧水「みろく肌水(全身用)」です。化粧水自体はさらりとみずみずしい感触ですが、浸透が早く、肌表面がしっとりと潤います。使い続けるほどに肌が柔らかくなり、これからの乾燥の季節にはぴったりの一品です。醍醐寺境内の売店で販売されています。
ご興味のある方は、右記のサイト(http://www.daigoji.or.jp/shop/index.html)をご参照ください。
※個人の感想で、感じ方には個人差があります。

その美しい姿で安らぎを与え、未来に必ず成仏することから「未来仏」ともいわれる弥勒菩薩。
「みろく肌水」の名称の由来です。
幸せな未来が訪れますようにとの願いをこめて作られているそうです。